COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその19】~震災後の街のスピードは心持ち落ちた~

  一年前の計画停電という無計画な措置は東北・関東の生活を直撃した。幸い、春めいて気温が上がり、節電のおかげで大停電の懸念はなくなり「計画停電」は2週間ほどで中断された。今年の夏も、関東では大丈夫らしい。「らしい」というのは、最近は「想定外」が多すぎて、大丈夫、安心だ、という言葉がまったく信じられないからだ。
  電力需給バランスが崩れて、前触れもなく停電すると、コンピュータ制御されているあらゆる機械が止まり、場合によっては壊れる。もしそうなれば医療器具は生命にかかわるし、人やモノは動かなくなり、生産活動のほとんどができなくなる。全部止まるのは困るから、不便で迷惑だが輪番停電はやむを得ないということになる。それでも間に合わないと大騒ぎになっている関西地域では、どっちも困るという典型的な「究極の選択」を迫られて、政権は、えいや!と大飯原発が再稼働することにしたが、ホントに大丈夫なのか。
  電力不足は徐々に国家経済に打撃を与え、石炭や天然ガスを燃やす発電の増加は環境悪化にもつながるだろう。不安定な太陽光や風力発電を大量導入するには、スマートグリッドのような需給制御システムと蓄電池が必要だが、議論ばかりしていてすぐには間に合いそうもない。せめて災害復興の際に整備する戦略性を期待したのだが、いっこうにその気配はないまま時期を逸してしまった。行き当たりばったりで、アクセルとブレーキを同時に踏むようなおかしなことを続けてきた政権は、節電社会の到来で、放っておけば省エネは否応なく実現されると高を括っているようだ。
  それにしても、これまでいかに贅沢に電力を使っていたことか。今となっては、無くても困らない照明や電気器具を点けっぱなしで平気だったころが懐かしくもある。その反動で震災後の東京は少し暗い。犯罪が増えないか、ライトを点けていない自転車がますます危険にならないか、と心配はきりがないが、幸いなことにまだ具現化はしていないようだ。。
  昨年は特に鉄道がひどいことになり、私鉄特急は軒並み運休あるいは減便、新幹線以外のJR特急も運休だらけだった。通勤電車も通常の8割くらいしか走っていなかったが、では、みんながクルマに切り替えたかというと、都心の道路はむしろ空いていた。自転車は確かに増えたが、計画停電実施中ほどではない。一年経ってあの猛烈な勢いで動いていた社会が、大災害を境に以前より静かに淡々とした生活に変わっているような気がする。
  実は大震災以前から、秒刻みで正確に動き回る都市の公共交通という幻想は崩れ始めていた。毎朝のように「人身事故」でどこかの路線は遅れており、人々は軽々しく口にできない原因を知っていて、予定が狂っても文句は言わない状況に慣れ始めている。いまや、公共交通機関が昔のように秒単位で正確に予定通りに運行されないことがあたりまえになり、私たちはようやく生活を現状に合わせようとしている。スローな生活はそのうちきっと定着するだろう。
 では、街のリズムはどのくらいが良いかと考えてみる。

  私の独断と偏見ではママチャリよりちょっと早い自転車のイメージである。

 【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】
 

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