2015年03月13日(金)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその48】~自転車政策を転換させるには政治の発想を変えることも必要だ~
また新しい春が巡ってきた。2011年は大震災で世の中がひっくり返り、それまでの価値観が少し変化した。
自転車の見直しはまさにその典型例で、道路交通が新しいステージに上がるかどうかの正念場がやってきている。
自転車の車輪を眼鏡替わりにして、世の中の不条理に憤っているだけでは負け犬の遠吠えである。
性根を入れ替えて、少しでも世のため人のためになりそうなことをやらなければならない。
と決意は固いのだが、浅学非才の高齢者になにができるものか、途方に暮れる毎日である。
せめて、サイトをお借りしてこれからどうすべえか、とあれこれ考えるヒントを申し上げ、ご叱正なりご鞭撻なりを賜りたいと思う次第である。
さて、「自転車で歩道を走るなんて、泥靴で畳に上がるようなもんだ」とおっしゃる国土交通省の高級官僚がおられて、まさにそのとおり!
どうしてそのことに長い間気がつかなかったの?と言いたくなったのだが、昔からずっとそう思ってきたとのこと。
でも、みんな歩道を走ってるし、警察官もちょっと前までは、車道を走っている自転車に「危ないから歩道に上がりなさい」なんて呼びかけたりしてたよね。
だから、車道に自転車が安全に通行できるスペースをつくらなくても文句を言われなかったし、予算も付かなかった。
それでも、やっぱり廃屋じゃないんだから畳に泥靴で上がるのはまずいだろう、座ってお茶飲んでる「歩行者」に迷惑だし、下手をすると蹴飛ばして怪我させるかもしれない、ということを言い続けていたら、警察もそりゃそうだ、と気がついて、自転車は車道!と言い始めたのはご同慶の至りである。
過去にも何回か、そのことに気がついた警察官僚や道路官僚はたくさんいた。
優秀な人たちなんだから、気がついて当然だし、それなりの対策も立ててきた。
しかし、自転車は車道、というまともなことがこれまで何故、そうだね、そっちの方向に行こうね、とならなかったのか。
実は、まともなことをつぶしてきた背景には「永田町の構造」というか「選挙の構造」があると私は思う。
簡単な話で、地元に帰った国会議員が後援者の奥さま連中に「自転車は車道だなんて危ないじゃないの!」と文句を言われる。
事実、クルマが高速で行き交う道路は危ない。お仲間とスーパーで出会った奥さまたちが連れ立って、狭い自転車で並んで帰ろうとすると無理があるから、一人は車道側にはみ出さないとおしゃべりしながら走れない。
(賢明な読者はご承知だろうが、これはれっきとした交通違反で罰則もある。以下、事例は違反だらけだがいちいち説明しないので、あれっ?と思ったら道交法を読み直していただきたい。)
おしゃべりに興じながら車道の端っこをふらふらと走っているとクルマの警笛が邪魔だ!邪魔だ!とばかりに鳴り響く。
いらいらしたドライバーは幅寄せをしてみたり、パッシングをしたり、危ない自転車を安全な歩道に誘導してやろうと努力するのである。
車道に比べて安全なはずの歩道を走っていると、道いっぱいに広がって歩いているグループがいたりして、しかたなく車道に乗り出すのだが、歩道から車道へ降りるスロープは思ったより急坂で、勢いのついているお母さんの自転車は大きくふくらんで飛び出すのである。
走ってきたクルマのドライバーはびっくりする。このとき、ハンドルを切るよりブレーキをかける選択が正しいはずだが、どうもクルマのスピードを落とすのが嫌いな人が多くて、危なっかしい。
停まりたくないという点では自転車利用者も同じで、こちらはこぎ出すのが辛いという至極もっともな理由がある。
クルマなんぞは座ってアクセル踏んだり、ブレーキ踏んだりしてるだけなんだから億劫がらないで止まれ、と言いたいが、自分が運転する段になるとなるべく停まりたくなくなるのも人情である。
それで漕ぎ出しが楽な電動アシスト自転車が人気である。坂道の多いわが国の町にはうってつけの技術の塊である。
子どもや荷物の多いお母さんたちや、足腰に衰えを感じ始めた高齢者が、楽に漕ぎだせて、すぐ安定したスピードに達することができる。
逆に言うと、軽くペダルを踏むだけで12、3km時に到達してしまうので、法律に従って歩道を徐行するのは難しく、つまりは歩道走行を前提にした環境で走らせるのは危険な代物である。
とは言え、漕ぎ出しが楽であれば交差点などではきちんと止まって安全確認してくれるだろうと期待したのだが、習慣とは恐ろしいもので、自転車なら信号無視すらあたりまえという人もあいかわらずである。
2010年度には原付バイクを含むエンジン付き二輪車の販売台数を、電動アシスト自転車が抜いてしまっている。
自転車業界としては喜ばしいが、交通ルールを勉強して免許をとった人たちが、電動アシスト自転車に乗り換えた途端、歩道を相当なスピードで突っ走り、歩道車道を構わず、キープレフトも守らず、時には信号を無視してはばからない。
「ええっ道路交通法って自転車にも適用されるの?」
最近ではまずお目にかかれなくなったが、つい数年前までは真顔で驚いた人を何人も知っている。
そういう善良で常識的な人々が、地元に帰ってきた政治家に素直な「国民の声」をぶつけ、不勉強で理念のかけらも無く選挙のことしか考えていない議員たちは、永田町に戻ってきて官僚に「こういう声があるぞ」と圧力をかける。
高齢者ドライバーに運転を卒業してもらう必要性や、エネルギー価格の高騰などを背景にした自転車利用の拡大、大震災以降の自転車通勤の流行などによる事故の急増など、早急な対策が重要であることを説明されると「よく説明するように」と説明責任を押し付けてしまう。
先見性を少しでも持ち合わせていたら、先頭に立って国民に説明し説得するのが政治家のとるべき態度だと思うが、情けない限りだ。
と、政治のていたらくを憂いたり怒ったりしてもしかたがない。
畳を靴で歩くような勘違いを追認するのをやめて、安全に快適に歩ける環境をつくるために官僚を指導して欲しいと、政策の「雨乞い」をすることにしよう。もうすぐ四年に一度の統一地方選挙の季節が来る。
政策のひとつに自転車を掲げる候補者が何人出てくるか、固唾を呑んで見守っている次第だ。
【季刊誌「PARKING TODAY(ライジング出版)」より改訂して掲載】