2012年04月23日(月)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその17】~大震災直後に期待を込めてコラムを書いたが・・・~
(2011年3月14日に書いたコラムです。私の甘い読みを深く反省するために再録しておきます。)
未曾有の震災で日本の運命が大きく変わりつつある。切羽詰まると、恐るべき勢いで自己改革を成し遂げる日本人の底力が、長い眠りから目醒め、世界はもう一度「極東の奇跡」に驚くことになるだろう。
今この原稿を、3日以内にM7以上の余震が起きるとの警告の下で書いている。莫大な地震のエネルギーが地下深くにまだ閉じ込められていて、それは次に房総半島の沖で解放されるかも知れないという。これが読まれているのであれば、東京の最悪の事態は回避されたに違いない。
東北地方太平洋岸は地震と津波で壊滅的な被害を被った。いくつかの港町は、地盤沈下と恐怖の記憶から復興が断念され、放棄地域が生まれる可能性がある。地権の問題や代替地の提供など、解決は難しいが新しい居住可能地域の開発は否応なく進み、高齢化比率の高いコンパクトシティが生まれるだろう。高い堤防に守られた都市が新たに設計されなければならない。都市間を結ぶ大規模交通網の復興は進められるだろうが、地方の村をつなぐ毛細血管にあたる路線は、電力不足が解消された段階でも完全復帰はおぼつかない。原発推進に急ブレーキがかかり、高騰した化石燃料の流通が減少し、東京のような大都市ですら、小さい行動半径で生活することを余儀なくされる。つまり、自転車サイズで生活圏を形成していく方向に世の中が舵を切る歴史的な転回点を迎えているのである。今朝早くから街道沿いに立って見ていると、既に道を行く自転車は1時間あたり240台を超えた。昨年11月に数えたときは同時刻に100台弱だった。2005年に英国ロンドンで同時多発テロが起きたとき、3本の地下鉄が約1ヶ月止まったが、たまたま滞在していた私が見たTVと新聞は「Shift The Pedal-Power」の記事で埋まっていた。そんなことは日本では起きないだろうと、根拠もなしに思い込んでいたが、間違いだった。
相次ぐ余震と津波、そして爆発し続ける原発が、20世紀に積み上げた文明の基盤に強烈な打撃を与えている。政治も根底から変革を求められるだろう。あまりに程度の低い政治屋たちと、責任逃れの官僚体質をそっちのけにして、救出と捜索、安全維持に生命をかけて取り組んでいる英雄たちがいる。世界の人々が驚愕し畏怖するほど礼儀正しく秩序を守り助け合う日本人がいる。これらが奇跡の始まりだと信じているのは私だけではないはずだ。
【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】