COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその18】~国家戦略なき交通体系の穴~

2011年10月に警察庁が「良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について」という通達を出し、これを受けた形で「安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた検討委員会」が警察庁と国土交通省の共同設置という形でスタートしたのは11月である。私も委員の一人なので、これについてはまたおいおい書くことにする。

 40年間、自転車の歩道通行を推奨してきたように見える政府が、大きく舵を正しい方向に切ったと喜んだのだが、やはり長年染みついた勘違いの汚泥は深い泥沼になっていて、簡単には前進できない。
 エネルギーの高騰、高齢化、健康/環境指向の高まりなど、社会はクルマの機能の一部を自転車に肩代わりさせる方向に進んでいる。急いで安全、快適に走ることのできる環境を整えなければ、自転車を活用しようという意欲は失われ、経済全体に影響が出かねない。都市における移動手段の確保は、先進各国共通の喫緊の課題であり、昨今の世界的な自転車ブームの背景には確かな展望に基づいた国家戦略が存在しているのである。
 ところが、わが国では自転車を含む基本的な交通体系についての議論が見あたらない。新幹線、高速道路、空港、港湾など建築物についての必要性と予算を巡っては、まさに百家争鳴である。だが、肝心の客の移動については、縦割り体質が染みついているためにそれぞれの事業体にお任せで、総合的なビジョンがない。
 だから、ハブ空港化や外国人観光客増加など、国家目標なるものを掲げても、いっこうに実現しない。なぜなら、日本独自のローカル・ルールが定着し、日本語が読めず、日本人の常識が理解できない観光客は、安全快適に交通機関が利用できないからだ。
 たとえば、外国人がレンタカーを借りて日本を巡るなどということは滅多にない。信号や標識に日本語の但し書きがたくさんあって、日本人ですら戸惑うことが多いからだ。生命の危険がないことなら「神秘の国・ニッポン」と宣伝もできるが、高齢化で外国人と同じくらい日本社会に疎い人々が登場してきている現実があり、問題の根は深い。

 政府がアテにできないとしたら、われわれ国民だけでもまともな交通秩序を取り戻すよう努力するしかない。とりあえずはルールを守って自転車に乗ることにしよう。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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