2012年09月18日(火)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその22】~摩訶不思議な人とクルマの逆通行原則~
道路交通法第十条は、歩行者の右側通行を義務づけている。
最近では、JRや地下鉄の駅で「左側通行」と表示してあるところがある。いわゆる「公道」ではないので、道交法の埒外ということなのだろう。
しかし、東京駅や新宿、池袋などの駅舎内は、一般公道並み、あるいはそれ以上の天下の往来である。つまり、ヒトは右、という原則は既に陳腐化している。
多くの先進工業国では、クルマもヒトも自転車も同じ方向に進むが、極東の孤島でガラパゴス的進化を究極まで推し進めて来たニッポンでは、その場しのぎのルールを積み重ねてきた結果、なんとも不合理な交通ができあがった。国民が若くて、ひらりひらりと身をかわしながら疾走していた時代が終わり、交通事故死者の半数以上が高齢者になっても、政治家はその不合理を一顧だにせず、国民は問題の存在そのものに気づかないまま、日々罪もない犠牲者が増えていく。
交通ルールを守れば安全が保障されるのが法治国家である。
ところが、ルールを守ると危険が増大する、という摩訶不思議なことが起きるのが、ニッポンの道交法である。たとえば、十条に従って歩道の右端を歩く歩行者になって考えてもらいたい。クルマの進行方向と同じ左側の歩道では、右端は車道寄りになる。その部分は、同じ道交法の第六十三条の四の2で「自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない」とされていて、歩行者がいれば自転車はそこで立ち往生することになる。
実際には「徐行」も「一時停止」もほとんど行われておらず、私は白い自転車に乗った警察官が歩行者の前で一時停止するのを、まだ見たことがない。
歩行者と自転車が出会った場合、歩行者は右へ避けようとし、自転車は左に寄って避けるのが、法律上は正しいはずだが、これでは正面衝突してしまう。
だから自転車側に停止義務が課せられているのだが、英国のようにみんな同じ方向に進むことが原則であれば、さらには自転車が車両として車道を走ることが当たり前になっていれば、そもそも道交法にこのような規定は要らない。
例外と但し書きだらけで複雑化した道交法は、寝苦しい残暑の夜には、早く眠くなる絶好の読み物なのだが、寝ついた後で必ず見るのは「悪夢」だ。
【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】