COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその23】~超高齢社会の自立できる「足」を考える~

 高齢者が「生活環境において不便に感じることはなにか」を調べたデータがある。
 少し古いデータで恐縮だが、以降に調査が見あたらないし、いまもめざましく改善されていないだろうから状況は変わっていないだろう。内閣府が平成17年の暮れから翌年の正月にかけて全国の60歳以上の男女3000人に聞いている。トップは「日常の買い物に不便」で16.6%で、平成13年調査の11.6%よりちょうど5%増えた。特に不便を感じない人が57.3%と過半数を超えているのが救いだが、平成13年は62.4%だったからこちらは5%減っている。
 当時の60歳以上人口は約3,717万人なので、買い物に不便を感じる高齢者は単純計算で約617万人となる。
 これはたいへんだというので、経産省は2009年に「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」なるものを設置した。いわゆる「買い物難民委員会」である。おおいに期待して、2010年5月に出た報告書を読んだ。 
 結論から言うと、高齢者が利用しやすいインターネット通販の仕組みを開拓しよう、ということらしい。縦割り行政を反省し、総合的な取り組みを提言しているのだが、現実には交通や道路は所管外なので、経産省の専門分野でできることに落ち着いたのだろう。
 高齢者は家にいて、必要な食料をネット注文し、宅配業者が届けに来る。便利かも知れないが、出歩かなくなれば、寝たきりの高齢者が増えることは目に見えている。「不便」だから在宅で暮らせる便利を提供しよう、と考えるのは間違いで、「不便」でも自立して出歩ける環境が欲しい、というのが高齢者のほんとうの声なのではないか。
 日常的に出かける高齢者の多くが「徒歩」(46.4%)だが、これに続くのが「自分で運転する自動車」(40.3%)、「自転車」(28.1%)だ。
 近年、高齢者の起こす交通事故の急増が社会問題化している。高速道路の逆送事件は年間1,000件を超え、高齢者の割合が高い。地方の病院などに向かう細い道路で路面を外れて転落する超高齢者の運転する軽自動車は、ニュースにすらならなくなった。
 クルマと自転車の間にあるべき「交通手段」が求められている。それは高価になりつつある貴重な石油を使うものであってはならないから、やはり自転車が出発点になると私は思う。
 国会ではわけのわからん政治闘争なるものが行われているようだが、クルマを運転しなくなった高齢者が快適に乗れる自転車、そして安全な道路環境の必要性に気づく政治家はいないのだろうか。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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