2013年01月15日(火)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその26】~自転車の健全利用は「世直し」である~
最近何度か目撃した不思議な光景がある。
サイレンを鳴らし赤色灯を回転させながら疾走する救急車を、かたわらから追い抜いて行くクルマである。
それも一台や二台ではない。道が空いていて、複数の車線があり、追い越して前に割り込むわけではないから、邪魔をしていることにはならない。ただ、緊急車両は状況に応じて進路を変える柔軟性が求められるから最優先の扱いになっているのではないか。それに、風前の灯となっている生命を乗せて緊急で走っているのだから、制限速度ギリギリで走っているはずだ。
こうした光景を東京では普通に見ることがあるので、私の感覚の方が異常なのかもしれない。新聞報道ではタクシー替わりに救急車を呼ぶ人がいるというし、救急患者をすぐに受け入れてくれる病院を捜すのも一苦労らしい。日本があまりにも平和で、緊急事態に鈍くなっているのだろうか。
あくまで私が目にした限りの印象だが、救急車を抜いて行くクルマはどうしたわけか高級車が多い。ここ1ヶ月以内に目撃したすべてが大排気量の外国車と国産の超高級車であった。日本のルールを知らない外国人が運転していたとしたら、それはそれで問題なのだが、どうやらそうではない。速度感覚が鈍くなった超高齢ドライバーでもない。その走り方は、まるで当たり前のように平然としていて、躊躇いがない。もっと不思議なのは、まだパトカーや白バイを高速で抜く光景を見ないことだ、やはりルールを知っていて無視していると考えざるを得ないのである。
歩道を暴走したり、道路を逆送したり、無灯火だったり傘差し、ケータイの「ながら運転」など、自転車の利用者を云々する記事や番組が目につくが、実はマナーやモラルの低下は私たちの社会全体に深く静かに伝染しつつあるのかもしれない。
会社や組織のために違法行為に手を染めることが一種の美徳とされていた時代はそんなに古い昔ではない。最近では取り締まる側でもさまざまな隠匿疑惑が発覚して、政府全体や政界ではもっと酷いことになっているに違いない、と国民がため息をつくことばかりだ。
だからこそ、せめて自転車は正しく乗りたい。生命の安全に直接響くことなのだから、些細なルールをおろそかにしない愚直さが大切である。子どもたちに売る自転車にはせめてわかりやすい手引き書を添えたい。業界側に作る気があるならいくらでもお手伝いする用意がある。
【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】