COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその29】~自転車の価値について考える~

 上海に行ってきた友人が、自転車のサドルの後ろに取り付けられたナンバープレートの写真を送ってくれた。
 自転車にナンバープレート?と思うだろうが、日本にだって防犯登録という制度がある。とかくの噂がある中国のそれが機能しているのかどうか疑わしいのと同様、わが国のも登録率がかんばしくないと聞いている。
 オランダではコンピュータチップを埋め込んで管理している地域があるとのことだが、平均価格が日本円にして8万円近いお国柄で、盗難防止に躍起なのだろう。
 その点、わが国では犯罪のなかで最も多いのが、自転車泥棒であり、この何十年もトップに君臨している。
 不思議なことに、検挙されるのはわずかに数%なのに、持ち主の手元に帰ってくる自転車は3割を超えている。ちょっと拝借して駅前などに放置し、防犯登録番号から持ち主に連絡できた場合である。検挙される自転車泥棒の6割ほどが少年だというから、きちんと管理できない駐輪は、犯罪者を育成しているようなものである。
 逆に言うと、6割くらいの持ち主は撤去されたり、盗まれたりしても騒ぎ立てないという恐るべき状況がある。安すぎる自転車が、自転車泥棒を社会問題としてクローズアップしない環境を作りだしている。物価が安いのはありがたいが、代わりに失っている何かは、巡りめぐって高いものについているかもしれない。
 自転車が昔、贅沢品として税金がかかり、鑑札が付与されていた頃、給料の4倍くらいの値段だった。それが、初任給の二十分の一程度で買える時代になった。卵と並んで物価の優等生だが、卵と同様に味がなくなった。いわゆる「普通」自転車という歩道通行可のカテゴリーに収まるものだけが生き残り、発展の方向が固定化されたためだ。幅60cm長さ190cmの枠のなかでガラパゴス的に成熟した自転車業界で、ドイツのようにベロタクシーを開発して走らせようなどと誰が考えるだろう。北欧を走る荷物や子どもを運ぶ三輪車の便利さを想像することもあるまい。
 そんななかで、とにかく軽い自転車、身障者でも使える自転車、リハビリ用の自転車等々、手作りに近いユニークな自転車も細々と造られてきた。先日も、ちょっとびっくりするような工夫に満ちた折り畳み自転車の試作品に出会った。数年内には売り出したいと、まだ三十代の若者が意気込んでいたのだが、その後、なかなかかんばしい噂を聞かない。ほんとうは、こういう自転車にはナンバープレートをつけてやりたいと思うのだが・・・。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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