COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその30】~『自転車元年』を振り返って~

 昨年11月に開催されたサイクルモードインターナショナル2012は、動員が前年より5%ほど減ったが、三日間眺めていて印象に残ったのは親子連れと女性グループの姿だった。NPO自転車活用推進研究会が参画しているチーム・キープ・レフト・ブースの観客は、これまではヘルメットを抱えたサイクルジャージばかりだったのが、今回はとてもカラフルに見えた。21世紀に入って先進国で起きた自転車ブームが、日本ではようやく底辺の広がりにつながってきたように思える。
 NPO自活研は、12月に開催された東京ビッグサイトの「エコプロダクツ展」にも、例年通り自転車コーナーを出展した。自転車を「愛車」ではなく、気軽に使えるサンダルのように感じている一般の人たちに、実はこんなにわくわくする世界があるんだよ、と訴えているのだが、なかなか理解は進まない。子どもの頃に、初めて自転車に乗って世界が何倍にも広がった瞬間の記憶を呼び覚ますことができたら、自転車活用への認識も高まるだろうと考え、昨年は「自転車eco学園」をつくった。
 昭和40年代後半に一世を風靡したフラッシャー自転車なども展示して、懐かしがる中年男性とその子どもたちを自転車の世界に引きずり込もうという魂胆だったが、圧倒的な中年男性の人気に比べ、ゲーム世代の子どもたちの反応はいまひとつ。なかなか思惑通りにはいかないものだ。

 以前は放置自転車問題にだけ関心を示してきた自治体も、最近は東日本大震災の影響もあって、さまざまに取り組みを強化している。タンデム車の公道走行を認めていたのは、長野、兵庫、山形、愛媛、広島だけだったが、昨年は宮崎県が追随した。
 街中に貸し出しポートを配置して回遊性を高めようというシェアバイクの導入や社会実験も少しずつ規模が大きくなってきた。自転車の走行空間を車道につくる動きも盛んになってきた。札幌市は時計台前の大通りの堆雪帯に自転車レーンを敷いた。ここのミソは二つで、交差点にもまっすぐな矢羽根マークを連続させたこと。もう一つはポロクルというシェアバイクのポートを、日本で初めて車道側からアクセスするようにしたことだ。
 先行する金沢や静岡、追いつこうとする宇都宮や新潟、そして東京など、これからも注目すべき自転車シーンが次々に登場してくるだろう。昨年初めに、後世、歴史を振り返ってみると2012年は「自転車元年」と位置づけられるかもしれない、と願いを込めて書いたが、どうやらそんなに的外れではなかったようだ。
 さて、この流れをより良い方向に進めていけるかどうか、ヨット好きの知事が辞めた東京が、ナンバープレートよりマシな方向を打ち出せるか。言うまでもなく正念場はこれからである。

 【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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