COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその32】自転車ADRセンターに期待したいこと

 自転車の事故は年間14万4,018件(2011年)で、件数は減少しつつあるが、交通事故全体に占める割合は増大している。交通事故の2割以上、交通事故死者の16%以上が自転車事故だ。件数は世界一、割合はオランダに次ぐ二位だが、一台あたりの自転車走行距離は我が国の7倍とも言われているので、距離あたりではダントツのトップ。「一番じゃなきゃいけないんですか!」とのたまったセレブ政治家がいたが、この件に関しては「一番ではいけないんです!」と断言できる。
 政府の発表する数字は、あたりまえのことだが認知件数である。つまり、警察に届け出があり事故として処理されたものだけだ。警察に通報したものの、結局、当人同士の話し合いにまかせて事故扱いにならなかったケースも少なくない。私はこの5年間で2件のこうした事例に遭遇している。05年に日本自転車普及協会の委託で約6800人にネット調査したところ、自転車にぶつけられた経験のある歩行者は約28%、うち警察に届けたと答えたのは6%未満で、実際には20倍近い事故が起きているだろうと推察できる。
 重大事故であれば被害も大きく、裁判で量刑や損害賠償についての判断が下されるが、刑事事件にするほどではなく、経済的負担や時間、労力を必要とする民事訴訟に訴えるほどでもないとなると、いわゆる「泣き寝入り」でおしまいになる。こうした背景が自転車の横暴への批判を増幅しているだけでなく、事故の実態が正確に把握できないまま放置する要因になっていると思われる。
 人の世の常としてトラブルは避けられないとしても、なんでもかんでも裁判に持ち込むわけにはいかない。かといって紛争解決の方法が・・・。そこにつけ込むのが組織暴力団で、結局、被害者加害者ともにしゃぶり尽くされる悲劇が絶えない。
 そこで、国が切り札としてつくったのが「裁判外紛争解決手続 の利用の促進に関する法律」。この法律に基づいて「裁判外紛争解決手続(ADR:Alternative Dispute Resolution)」を扱う組織を、法務大臣の認可の下で設置することができるようになり、たとえば、福島原発の被害を救済するため文部科学省に原子力損害賠償紛争解決センターが設置され、ようやくメディアにも取り上げられるようになった。
 2013年の3月には「自転車ADRセンター」が発足した。紛争解決に対する期待も大きいのだが、この組織が蓄積するはずの膨大な事例に注目したい。これまで、評価分析されてこなかった事故の実態を共有すること、そして原因追及作業は、きっと自転車の安全快適な利用環境を整備する上で、新しい貴重な材料になるはずだ。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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