COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその39】~安心管理の駐輪場が放置を無くす~

 20世紀の終わり頃、環境学が必要とされ専門家の育成が叫ばれた。バブルがはじけ、最初の政権交代が目前に迫った混沌期である。数年後、各大学は環境と名のついた学部や学科の新設を当時の文部省に申請した。お役所仕事の常で認可には慎重な上にも慎重を期して、審査評価に最低3年を要する。21世紀に入って続々と専門学部が登場したが、時代はもう次の段階に進み、卒業しても知識を活かせる職場がおいそれとは見つからない。同じようなことは法科大学院、看護、介護分野、そして花形だったIT関連の学科でも起きた。無資源国日本の救世主と目された原子力技術者を養成する学科も、いまでは閑古鳥さえ鳴かない。

 考えてみると世の中の不幸の一部はミスマッチによって引き起こされている。ミスマッチの原因はタイムラグである。「いま」必要なのに、人材を育成して供給されるまで何年もかかれば、市場は人材無しで成り立つような仕組みをつくる。ところが、市場原理が働かない公共団体では、判断ミスや遅れによるツケは国民に回される。なぜなら「先送り」していれば問題が縮小され、消えることがあると知っているからだ。

 たとえば全国の保育所待機児童数は2012年10月で46,127人とされている。1年間でほぼ倍増したとのことで、安倍内閣は4年で待機児童ゼロの目標を打ち出した。たいへんけっこうなことだが、当然4年後の待機児童は「いま」の待機児童ではない。子どもを預けて働きに出るお母さんたちが急増したというが、急増する原因をつくったのも政府である。やがて人口は減る。子どもも減るから、施設や保育士を大量に生み出すと後で困る。だったらいまは首をすくめて嵐が去るのを待とう、ということになる。困り果てるのは「いま」を生きる私たちである。

 知恵と工夫が見あたらないわけではない。もうずいぶん前から保育園/幼稚園と高齢者施設を一緒にして管理しようという試みがある。保育士が介護士も兼ねるわけだから高い能力が必要だが、余剰な人材は生まれない。感染症の問題や、そもそも管轄が違うお役所同士が協力しない、という情けない現実の壁に阻まれてなかなか普及しない。

 自転車の世界では、都心部での駐輪場がミスマッチの典型例だ。公共交通が発達した中心市街地にクルマで来る人は減った。にもかかわらず、付置義務が条例などで定められていて、ガラ空きの駐車場があちこちにある。反面、自転車ブームは大量のツーキニストを生み出し、放置ならぬガードレール縛り付け駐輪が氾濫している。「自動車用駐車場」と明記するから身動きがとれなくなる。「自動車」を「車両」と書き直す法改正を実行する知恵と度胸があれば、新しい駐輪場市場が一挙に広がる。硬直化した既成概念を打ち破る勇気を政治家に求めたい。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】
 

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