2014年10月15日(水)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその44】~東京都の方針につけたいちゃもんを蒸し返す~
自転車はこの世の中に必要なものなのか?
いまさら、と思うが、問い直さなければならないような条例案が、2013年に東京都の青少年対策本部から
出てきて、恐ろしいことに都議会で議論され、成立してしまった。実際に都は熱心に条例を執行しているようには見えないが、いろいろ気になることがあるので問題点を書いておくことにする。
自転車の迷惑を減らしたい、という意図で提案された条例なのだが、不思議な作りになっている。
「自転車の安全で適正な利用を促進するための条例」は7つの項目からできていて、邪推かもしれないが真の狙いは最後に掲げられた「自転車関連事業の任意の登録制度の導入」であるような気がする。
つまり、なにか新しい組織を作ることが目的化していて、姑息なやり方としか言いようがないが、一種の雇用対策なのかもしれない。
都のHPには簡単に経緯が説明されている。
「東京都では、東京都自転車対策懇談会を設置するなどし、自転車の安全で適正な利用を促進するための方策を検討してきました。
このたび、同懇談会からの提言も踏まえ、自転車の安全で適正な利用を促進するための条例に盛り込む主な内容を作成し、これについて広く都民の皆様からの御意見を募集します。
なお、同懇談会からの提言に盛り込まれている「ナンバープレート制度・デポジット制度」については、今回の内容には含まず導入の是非やその制度の在り方を引き続き検討していきます。」
そもそもこの条例の出発点であった都の懇談会の提言の目玉は、「ナンバープレート制度・デポジット制度」なのだが、これらは結局盛り込まれず、検討を継続すると言っている。妙案だが愚策であることが目に見えているので、盛り込まれなかったのは当然であろう。
今回の条例は、「提言を踏まえ」ているのではなく、「提言【も】踏まえ」たもので、肝心なことは先送りですよ、ということだ。
また、自転車の利用促進が目的であると宣言しておきながら、提言も条例も真逆の内容であるだけでなく、条例の内容に至っては提言【も】踏まえ、と言いながら実際には踏まえるはずの主要部分は先送り。
「利用を促進するための方策」を検討していたわけだから、利用促進策が盛り込まれていると思うのが普通だが、内容に書かれているのは利用抑制につながるものばかりだ。
いったい何をどうしたいのか、理解不能なのである。
いや、実は提言内容が荒唐無稽だったので、いちおうこれを踏まえた格好にしておいて、都民生活に本当に寄与する内容にしたのかな、と好意的に解釈して読み進むと、最初の一行目から???となる。
「1、都に関する規定 (1)自転車の安全で適正な利用に関する都の施策及び都民等の取組を総合的に推進するための計画を策定し、公表する。」
つまり、この内容は「転車の安全で適正な利用に関する都の施策及び都民等の取組を総合的に推進するための計画」が策定され、公表されることを前提としていることがわかる。
1に盛り込まれたものは、(2)教育指針、(3)点検・整備指針、(4)自転車道、駐輪場等の整備、
で、これらは都が作って公表、あるいは必要な措置を講ずることになっている。
そして2以降には、利用者や事業者、つまり都民の役割が書いてあり、「都の施策に積極的に協力する」ことが義務になっている。
ということは、まだ何をどうするということは決まっていないけれど、とにかく決まったことには従いなさいよ、と条例で定めるのである。都の自転車計画がまとめられ、議会や都民の賛同を得て、従わない人にはペナルティがあるよ、という順序ではない。
内容は後で決めるからとにかく従え、と言われて、はいはいお上のご威光には唯々諾々と従います、というのが民主国家の首都でまかり通ろうとしているのである。
自転車は楽しい。そのうえ、環境や健康、経済にも貢献する。たくさんの人が便利に使っているのに、走る空間はほとんど整備されていない。
自転車置き場はあっても、安心して愛車をまかせられる駐輪場は滅多にみあたらない。
これから持続可能なライフスタイルが求められる時代になる。エネルギー価格が高騰する兆しも見えてきた。
そして、世界一の超高齢社会に突入し、クルマの運転に不安を感じる世代が自転車など、緩い速度で簡便に移動できる手段への転換を急がなくてはならない。
クルマのことだけを考えて道路や街づくりを続けて来たが、近未来では自転車などが活用できる環境を実現させなければいけない。
だが、道も街も、法律や制度、予算も人の心も準備ができていない。いくら立派な学校や病院をつくっても、そこまで行く選択肢はそれほど多くない。
ランドセルを背負った子どもたちの脇を急いで抜けていくクルマも野放しにされている。
採算の合わなくなった路線バスは減便や廃止に追い込まれ、買いもの難民を救おうとサイトで注文して宅配サービスがはびこり、外出機会を失った寝たきり予備軍が増えるという逆効果をもたらしている。
だから、自転車を含めて総合的な都市交通のあり方を考え、都民の移動を安全かつ快適なものにしていくための施策が必要なのである。
それが、出てきたものは、クルマの邪魔になり、歩行者の迷惑だから自転車は使うな、と言わんばかりの内容である。
冒頭に書いた「自転車は必要とされているのか?」と聞くまでもなく、東京では900万台以上の自転車が使われているのである。
条例を読んで、怒りのために脳の血管が爆発するのではないかと心配になったが、なんとか生き延びている。
生きている限りは、こうした勘違いを罵倒し続けるつもりだ。
【季刊誌「PARKING TODAY(ライジング出版)」より改訂して掲載】