COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその50】~自転車泥棒についてまたも考える~

 あまりに日常茶飯事になってしまったために、いまやニュースにもとりあげられなくなったが「自転車盗」はいまだにもっとも多い犯罪である。
 
 警察庁の「犯罪情勢」によると、刑法犯の認知件数は平成14年の2,853,739件をピークに減少しつつあり、平成25年には132万678件と、12年間で半分以下になった。
この間、自転車ドロは常に1位に君臨し続けている。
さらに、ピーク時521,801件(18.3%)が、305,003件(22.8%)と件数は減っているものの、犯罪全体に占める割合はますます大きくなっていて、これは交通事故全体に占める自転車関連事故の発生状況ときわめてよく似ている。
 
 自転車がどこで盗まれているかというと、自転車盗の発生場所認知のデータが平成15年からしか公開されていないが、52.0%、実に半数が駐輪場なのである。
23年においても、46.3%と改善されているものの2位の「道路上」(18.5%)を大きく2倍以上引き離している。
最近、ガードレールや横断防止柵に自転車を縛り付けている光景をよく目にするので、道路上の自転車ドロの割合が高くなっているのではないかと思ったのだが、15年は23.2%もあり、むしろ最近は減少傾向にある。
これは駅前などの放置自転車が減ったからなのだろう。
 
 こうしたデータを眺めていると、だんだん頭に血が昇って来る。
なにが腹立たしいかというと、駐輪場で自転車ドロがずーーーーーっと横行していて、いつのまにかそれをさも当然のように受けとめている人が実に多いというバカげた事実に対してである。

 選りに選って駐輪場で自転車が盗まれるケースが飛び抜けて多い!?
しかも、どの駐輪場でもどこかに「盗難やいたずらの責任は負えません」などと恥ずかしげもなく張り紙して平気な顔をしている。
そりゃ、いちいち責任を取っていたらたまったものではない。
しかし、大切にしている自転車を、盗られても知りませんよ、とうそぶいている施設に「料金まで払って!」預けている方はまったくの間抜けである。

 最近は高級車を乗り回す人も多い。
ネットには自転車盗難掲示板、盗難情報、情報交換サイト・・・といったものがやたらに多いのも、愛車が盗難に遭うことが珍しくないからだろう。
なかには、監視員の目の前に駐めていて、丈夫なワイヤーキーを2本も付けていて盗まれたとの報告もある。
こうなると、自転車を買うのがばかばかしくなる、というので盗む方に回ったという事件もあって、世も末である。
そもそも駐輪場の係員は監視員ではなく、整理するだけで何の責任も負わないことになっている。
シルバーの仕事でもあり、お給金も安いので無理は言えないのだろうが、自転車に関することは走行空間にしろ、駐輪場所にしろ、交通規制にしろ「しかたがない」と諦めなければならないことが多すぎはしないか。

 そのうえ、東京都は条例までつくって、ちゃんと駐輪しないと会社を締め上げるぞ、と脅しあげ、自転車通勤を断念させるというありさまだ。
駐輪場に金も人も過分に入れ込むことはできない、という腹には、たかが自転車じゃないか、という蔑視感覚が見え隠れする。
まず、預けたものをきちんと管理してそのまま返すという最低のサービスを担保してから、放置はダメよ、とルール化するのが物事の順序ではないか。

 ちゃんとした駐輪場が用意されれば、そのための対価を払う用意のある自転車利用者は少なくない。

 東京の江戸川区が大規模導入して話題になった機械式地下駐輪場は、最後の切り札になるかも知れない。
ただ、少し前の機械は超高級車をそっと扱う設計になっていないために、いわゆるママチャリしか格納できない。
港区の品川駅港南口に設置された最新型は大丈夫だと言うが、グアッと機械が出てきてグイッと前輪をつかんで奈落の底へ引き込んでいく情景を見ると、磨き込んだ愛車のスポークやハブがつぶされやしないかと不安に駆られる。
確認してみると、どんな高級車でも大丈夫とのこと。
さすがに技術革新は日本のお家芸である。
無料の方が良いという声もあるが、月額2,000円以下で安心が得られるのであれば安いものだ。

 さいたまでは月額数千円で専用ロッカーに愛車を預かってくれる新サービスも登場した。
ママチャリ族には無縁のサービスかも知れないが、もうそろそろ駐輪を「放置を無くすための自転車置き場」的な感覚ではなく、将来性のある保管サービスとして展開すべき時代になってきたと思う。
メンテナンスなどの附帯サービスを含めたビジネスモデルの登場を期待したい。

 さて、なにか良い話はないものかとデータを見直すと、盗難に遭った自転車が見つかって還ってくる割合は、平成13年に29.7%だったのに、25年には43.9%と大きく改善されていることを発見した。
犯人の検挙率は、6.2%が5.4%と下がっているのが気になるが、ちょい乗りで盗まれた自転車が、どこかに放置され、チェックした警察官が防犯登録で盗難車と確認して還ってくる、ということにちがいない。

 最後に、気になったのは検挙された犯人の年齢である。
実は犯人の半数近くが未成年なのである。
そして、共犯つまり複数で盗んで捕まる少年が2割以上いる。
大人はほとんどが単独犯であることをみると、おもしろがってやっている子どもたちが少なくないという悲しい現実が見えてくる。
たかが自転車泥棒と大目に見る風潮も感じられる。
小動物を虐待する子どもが、下手をするとやがて凶悪犯に変容すると警告する心理学者がいるが、自転車ドロを罪悪感なしにやってしまう子どもたちの未来はいったいどうなるのだろう。
盗みやすい環境を放置していることは、国を滅ぼすかも知れないくらい重い罪だと、自戒を込めて痛感する。
 
【季刊誌「PARKING TODAY(ライジング出版)」より改訂して掲載】

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