2017年04月18日(火)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその58】~電動アシスト自転車に「止まる」高性能を追加せよ~
最近、いかにも日本的な発明品が世界を席巻しつつある。
ひとつはシャワートイレで、最新型のジェット旅客機にまで装備されるようになった。お湯で洗う作業を、電気を使ってここまでの完成度で行うなどということを思いつくのは緻密で清潔好きの日本人ならではであろう。
もう一つ私が思いつくのは電動アシスト自転車である。
欧州では専門の雑誌が登場するほどの人気だ。2013年頃までは日本製のユニットが引っ張りだこだったそうだが、ドイツの世界的な自動車部品メーカーであるBOSCH(ボッシュ)が乗り出し、欧州のシェアを獲得しつつあるという。日本の歩道通行を前提としたレギュレーションは世界中のどの国からも相手にされないばかりか、案の定、似て非なる中国製の横行でどんどん肩身が狭くなっている。
中国では、わが国のように、歩道通行のために速度によってアシスト率を変化させるといった微妙な芸当を必要としない。おおざっぱな作りの製品でも使えるため、優秀な日本製品の必要は無い。
オートバイと自転車の境目が曖昧なことは聞いていたが、先日、北京と天津に出かけてみて驚いた。電動の三輪や四輪のクルマと見まがう代物までが、ほぼ自転車感覚で利用されている。
高級品にはBOSCH製のホイールinモーターが使われているが、汎用品は中国製品である。
電動車メーカーは年産1000万台の単位でフル操業し、毎週のように新開発、改善が行われる。カラフルで格好いいものも増えた。
その様子を見ていると、日本製品の信頼性と安全性は折り紙付きな反面、楽しさを演出するセンスが不足している。どうもこのあたりの遊び感覚の希薄さが日本のものづくりの限界を象徴しているような気がして心配だ。
とはいえ、日本国内では、山坂が多い国土、急激に進む高齢化、とにかく忙しい子育て中のお母さん、といった条件が電動アシスト自転車の需要を拡大させていて、海外ブランドに食い荒らされた自転車市場で、国産メーカーが唯一元気な分野である。
電機メーカーの新規参入もあって安穏としていられない状況に加えて、高齢者の事故の急増が注目され始めた。
アシスト車は漕ぎ出しが楽で、早く安定速度に達する性能がある。
漕ぎ出すのがたいへんだと、できるだけ停まりたくないという心理が働き、交差点などでの出会い頭事故の要因になると言われてきた。アシスト車の普及で、停まりやすい環境が生まれているはずなのに、事故は減らない。
電池切れで単に重いだけの自転車になっている場合が多いのではないかと疑う声もある。
私が不思議に思うのは、走るのにアシストがあるのに、止まるアシストが無いことだ。
試乗してみると、握力の衰えた高齢者が扱うには大きくて重いブレーキレバーが少なくない。
クルマだって高性能車には高性能なブレーキシステムが当然のように装備される。
もう少し工夫があっても良さそうな気がするが、小指一本でも確実に動作する油圧ディスクブレーキなどを付けると、安心してより高速で歩道を爆走して事故が増えるとの指摘もあって頭が痛い。
高齢者の移動をどのように安全快適にするか、という時代的命題には、
アシスト車の利便性を追求するだけでなく道路や交通環境への総合的な考察が必要なのであり、これを怠るとせっかくの目玉商品に危険物のレッテルが貼り付けられかねない。
業界の真剣で素早い対応を切に望む。
【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】