COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその60】~せっかく自転車政策をやる、と言ってた知事だが~

 この記事は2016年の春に書いたものだ。
時代は小池百合子都知事の世となったが、都の自転車交通政策には目立った進展はない。
警視庁が16年中に340kmに自転車ナビマークを描きまくったことで、都民の間に自転車はやはり車道左なのだな、という理解は生まれつつある。都が本気になれば利用環境はすぐ変えられるはずだが、豊洲やオリンピック資金で自転車どころではないのかもしれない。
 
 庶民感覚からかけ離れた言動で辞めた舛添要一前東京都知事だが、就任直後には「桝添カラー」をにじませるための追加予算の一部を自転車政策に振り当てるなど、前向きだった。
 2014年度の総額13兆3400億円にも昇る予算案は、辞めてしまった猪瀬元知事の代わりに副知事が作った。新知事のために残しておいた約77億円の新知事裁量部分は新年度予算案の同時補正という形で計上され、厚生労働大臣経験者の舛添さんはその約半分の30億円を子育て支援に充てた。

あとは公約に盛り込んだ項目が並び、災害対策には18億円、再生可能エネルギー発電の推進に12億円を計上したほか、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けては7億1000万円が充てられた。で、自転車関連はというと施策三本に1千万円ずつ、計3000万円の調査予算。
都は既に20年までに約60億円をかけて約120kmの自転車走行空間を整備する計画を持っているが、これまで作ってきた約100kmのほとんどを歩道上に作ってしまった「実績」があり、国のガイドラインが公表される前に決定した都の計画では歩道に整備することを基本としている。
計画のままでは東京が「世界一時代遅れの街」になりかねなかった。
 
 フランスやスイスへの留学経験を持つ桝添さんは、高齢化が都市交通に強烈な「危険」を作り出す威力について敏感なはずだった。
とかく政治家は選挙の修羅場をくぐり抜ける頑健な身体と図太い神経を持っている。当選後は猛烈な過密日程に追いかけられるため、四六時中クルマの中で電話し続けるために、高齢でありながら高齢者らしい悩みを意に介さない傾向がある。少子高齢化対策がお題目だけで、なかなか実生活に密着した有効な施策が見あたらない背景には「鈍感」を醸成する政治生活環境があると私は思っていたが、舛添さんも例外ではなかったらしい。

 舛添さんが選ばれた都知事選挙告示の翌日、2014年1月24日の読売新聞朝刊首都圏版に、私たち自転車活用推進研究会は「すべての候補者に自転車政策を」と呼びかける全面広告を掲載した。
候補者は出陣前にすべての新聞に目を通すのが日課である。でないと、とんでもないトンチンカンな演説をしてしまう危険があるからだ。
この意見広告は、有力候補全員が自転車について演説し始めたことでとても効果的だった。
また、同時に発信した要請に真っ先に応えてくれたのは桝添候補で、車道上の自転車レーン、街角に散在する駐輪場、大規模なシェアサイクルという三つの要請にすべて賛同し、当選したら実現に向けて努力すると約束してくれた。
よくわかっていたはずの桝添知事の登場で、東京の自転車環境整備が正しい方向に進むことを大いに期待したのだが、またも空振りである。泣きたい気持ちだ。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】
 

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