COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその61】~日本でもシェアサイクルが選択できる環境を~

 いまや世界49カ国500都市で展開されているシェアサイクルシステムだが、わが国にはまだ本格的な成功例がない。
 香川県高松市には、レンタサイクルを市内7カ所の拠点で貸出返却ができるようにした1000台規模のシステムがあり、訪れるたびに讃岐うどんツアーの足として重宝しているが、シェアサイクルと呼べるレベルではない。
 
 シェアサイクルの定義は定まっていないが、世界の趨勢は24時間貸出返却が可能な無人のポート(シェアサイクルの貸出返却拠点)が300m程度の間隔で街中に配置され、どのポートでも貸出返却ができ、30分程度利用は無料、メンテナンスが行き届き、偏在するポート間の再配置などのサービスがあり、クレジットカードやICカードで個人認証と課金ができるシステムである。

 わが国でこれらの条件をほぼ満たしているのは富山市のシクロシティ(愛称:アヴィレ)くらいのものだが、総台数は170台と少ない。17カ所のポートが配置されている中心部の人口は約9万人だから、市民の足として活かすにはその1%程度の900台は必要だろう。ただ、わが国で展開された77都市のシェアサイクル実験のなかで、ここだけがポートをできるだけ街の目立つところに配置しているところは高く評価できる。

 考えてみればあたりまえだが、カーシェアリングより手軽に使えるところが魅力の一つであるのに、地図やスマホなどを使ってポートを捜さなければならないようでは、シェアサイクルシステムは成り立たない。大きな交差点に立てば、ポートが複数見えるくらいの密度で拠点が見つかることが最低条件である。日本国内の実例をいくつも見てきたが、なかには地図を片手に捜しても外側からは案内表示が見つからず、勇気を出して入り込んだホテルの駐輪場の片隅にポートを発見して呆然としたことすらあった。

 世界の都市では、自治体が積極的に民間の活力を使って展開しており、大規模なサービス地域を支配するが、わが国の場合には市街地と郊外の境界があいまい、いやほとんど無い状態であるため、たとえば市区町村単位で事業者が異なった場合、A区で借りたシェアサイクルをB市では返せないという不便が生じる。
東京では江東区、港区、千代田区、中央区、新宿区、文京区が相互乗り入れを実現し、新宿区や大田区も参加する見通しだが、ドコモバイクシェアのシステムを導入しなければ相互乗り入れができないのが現実だ。
利用者は行政単位を意識して移動するわけではない。早急に事業者が異なっても使える環境を構築する必要がある。

 これは顧客を囲い込もうとする企業論理に反するが、利己主義で張り合っていては、巨大な新しい公共交通の市場利益を誰も得られないばかりか、海外の都市では提供されるあたりまえのサービスを、日本人と日本を訪れる観光客だけが受けられないという情けないことになる。
そのため、国と自治体、事業会社の間の調整役を果たすべく2014年4月1日に日本シェアサイクル協会を社団法人として登記した。日本の叡智を結集して新時代を切り拓いていきたいが、前途多難である。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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