COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその65】~自転車悪者説に反論できない~

エネルギー工学が専門だったという同年配の議論好きに、共通の友人から初めて引き合わされ、三人とも前の会合でできあがっていたので、互いが何者なのかを確かめもせず思いつくまま世の中の批判を始めた。
どうも団塊の世代には、世の偉い人をバカ呼ばわりして喜ぶ性癖を持つ人が多い。という私自身もその傾向があるらしく、自分のことは棚に上げて、おおいに盛り上がった。
ふと友人が、私を「自転車のことをやっている」と紹介したのが間違いだった。

いったい自転車のなにをどうやっているのかを説明する暇もなく、工学博士殿はけしからん!と怒り狂った。
赤信号は無視する、歩いている人間をチリンチリンと追い立てる、クルマの前には飛び出し、ライトは付けないが傘は差す。自転車にはマナーが欠けておる。駅前の放置された自転車は汚らしく邪魔で、いざという時の通路をふさぐ重大な犯罪行為である。世界中が自転車をクルマと同じように車両として走らせているのに、なぜおまえらは歩道を我が物顔に走るのか。恥を知れ!

 「自転車のことをやっている」私は極悪非道の大悪人にされてしまった。
そもそもおまえらは歩道を走るから、交差点でクルマに撥ねられるようなバカな目に遭うのだ。
都合が良いときは歩行者に化けるし、一方通行で自転車を除くという不公平で危険な標識もけしからん。
車道でクルマに向かって突進してくる逆走自転車はひき殺してもかまわんという法律ができないのは国会議員が無能だからだ。とは言うものの、我が家の高校生の孫は多分、逆走も無灯火も信号無視もやっているにちがいない。親の教育が悪いから(その親はおまえだぞ)、そのうち歩行者にぶつけてたいへんなことになるかもしれない。だから同居親族がこぞって入れる損害賠償保険に入った。
あの毒々しい青いレーンが近所にできて、クルマを運転していると危なっかしくてひどく目ざわりだが、ああでもしないとマナーはよくならんと思うので、もう少し予算を付けるべきだ・・・と、私の言いたいことを全部言って、悪い自転車を代表する私をさんざんに糾弾して彼は溜飲を下げた。

 引っ込み思案で物怖じする私は、ほとんど言い返すこともできず、翌日はひどい二日酔いになやまされたが、肝心なことを聞き忘れたことを思い出して、また落ち込んだ。いったい、彼は自転車に乗ることがあるのだろうか。
今度会ったらポタリングにでも出かけないかと誘ってみよう。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】
 

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