5月12日に大阪でタンクローリーが歩道に突っ込み、歩道にいた男性2人が死亡した。運転手によると右側の車線を先行していたワゴン車が、突然左車線に進路を変更してきたのを避けようとしたが間に合わず、歩道に乗り上げたという。割り込んできたワゴン車の運転手は、自転車が中央線を超えて横断してきたのを避けるためにハンドルを左に切ったと証言。目撃者も片側2車線(幅約25メートル)の信号のない場所を横切ろうと自転車が飛び出してきたと指摘し、大阪地検は運転手2人を処分保留で釈放し、自転車に乗っていた60歳の男を重過失致死容疑で逮捕した。結局、二人の尊い生命を奪った責任は、危険を承知て無謀な横断をしようとした60歳の自転車の男にある。マスメディアはいっせいに、やっぱり自転車のマナーが悪い。特に大阪の自転車運転は危険だ、という論調になった。警察は敏感に反応し、主要都市で自転車納付書危険運転を注意する様子がTVや新聞に大きく取り上げられた。
私は性格が歪んでいるので、新聞やテレビの報道を素直に信じない。ついでがあったので、現場に行って近所の人に話を聞いてみた。疑問の第一は、最初の記事では自転車のことは触れられていないのに、10日ほど経った第二報で初めて自転車が登場し、二人のドライバーが処分保留で釈放されたことだ。さらに10日後には自転車の男の「異例の起訴」が報じられる。事故の直後に自転車の男は逃げてしまっていたのに、やがて目撃者の証言などから身元が割れて逮捕される。なぜなら、この自転車の男は日常的に危険な横断をやっていたからなのである。午前9時ちょっと前にこの近辺の交差点を、信号を無視し、渋滞しがちなクルマの間をすり抜けて斜めに横断する自転車が跡を絶たないのが実態である。なぜそんな危険な行為を野放しにして来たのか。
驚くべきことに、その交差点の一角には大阪府警の浪速署が鎮座している。疑問の第二は、主要な警察署のすぐそばで無法で無謀な自転車走行が日常化していたのに、注意することもなく放置していたことだ。事故が起きると大騒ぎして、犯人探しを始めるのに、未然に事故を防ぐ手だてを誰も講じようとしなかったことになる。交通秩序を維持することが本来の役目なのではないのか。無謀な自転車を第一当事者として起訴した検察の論理に習うなら、そもそもの原因者として特定すべき容疑者は他にもいるのではないか。
やるべきことをやらないでおいて、自転車乗りのマナーを云々するのは不毛な議論だと思うのは私だけだろうか。少ない人員で交通安全を推進するのは至難の技であることはよくわかる。だとしたら、せめて歩道を走り、時には二台で並んでパトロールするのはやめてもらいたい。これでは理不尽に生命を奪われたお二人の霊は救われないではないか。
【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】
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