COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその7】~キープレフトTシャツ~

 創立以来、自転車の車道左側走行による自転車市民権の確立を目指してきた私たちだが、一般の理解もなかなか得られず、ルール無視やマナー違反までが自転車活用推進のせいにされるありさまである。本来、歩道は歩行者のものなので、自転車は車道に出るべきだと私たちは考えた。
 やってみると、車道を走ることは命懸けの危険な行為だった。クルマのドライバーたちは、車道にいる自転車を「異常」と受け止め、親切心からかブッブーと警笛を鳴らす。わざわざ幅寄せして危険を知らせてくれる人までいて、大きなお世話である。自転車に乗る方もマナーどころか「車道左端が原則」という基本ルールすら知らず、意図せずに危険をふりまいて世の中の顰蹙を買う始末である。
 これはひとえに明確でわかりやすくシンプルなメッセージを発信できなかった我々の責任である、と深く反省した。そこで、ここ数年、とにかく左側を走れ、という一点にしぼって活動してきた。最近になって、どこを走行するかによる事故率を分析した論文が登場し、私たちの素人論議が学術的にも裏付けられた。いつもアドバイスしてくれる大学教授たちからの情報だ。ありがたいことだが、危険予測が正しかったから といって喜んでいてはいけない。東京の国道254号線、通称、春日通りでの事故分析によると、自転車事故の多くは出会い頭に起きているが、特に歩道を通行している場合、建物よりを行く自転車の危険率が高い。そして、この場合に右側通行している自転車は左側通行している自転車より約10倍も危険率が高いのである。この報告以降、あちこちで同じような調査が行われ、18倍も高いとか、50倍に達するとか、さまざまな指摘が表面化してきた。いずれにしても共通しているのは、歩道の建物よりに走る自転車の危険を証明していることだ。実は、こんなことは数十年前から欧米では常識になっていて、公式文書にも当然の前提として書かれている。日本だけが「歩道は安全」というのは、「ものすごく危険な車道」に比べて、の話であって、車道を自転車にとって安全な走行空間にする努力はしませんよ、という宣言に聞こえる。
 そんな日本でも、もっとも事故率が低いのは、当然のことながら車道左側を走る自転車である。これは、意識も技術も相当に高いレベルにある人たちが走るからだろう。つまり、車道の逆走は論外。そして右側の歩道もリスクが高いのである。こうした研究は海外でもたくさん行われているが、クルマの方向と逆に走る自転車は危険というの常識をどうやって世の人々に伝えればいいのか、そこが問題だ。論文をコピーして配っても誰も読まない。では、Tシャツの胸にメッセー ジを書いて、春になったら町に出よう!というので「自転車は左側走行だよ!」と書いたTシャツを09年のサイクルモードから販売している。そんなダサいデザインTシャツを買う奴がいるものか、という事前の心配は不要だった。そうだよね、という自転車乗りが数百名、町を走り始めているのである。自転車時代を支える真のサイクリストたちのささやかな努力が大きく拡がっていくことを祈るばかりである。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

 

 

 

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