自転車ブームだというので、私のような者までTVに呼び出される有様である。TVというものは断片の垂れ流しなので、情報としてはきわめて偏りが多い。うける番組をつくりたいのはわかるが、けっこうでたらめなことをやる。数年前、某局で自転車の速度をスピードガンで測って、暴走はひどい、という画面をつくった。使ったのは野球のボールの速度を測るような装置である。こういう機械は自転車のように遅いものは苦手で、案の定、時速15キロメートルくらいの自転車を倍くらいの速度と誤認した。間違っていてもTVで流れると、いかにも真実のように伝わるから怖い。暴走自転車の恐怖を強調するのに随分貢献した。
今でこそ少なくなったが、TVや雑誌で景色の良いところや歴史的な建造物を背景に颯爽と行く自転車、という画面が法令違反の逆送であることもあたりまえだった。見つけるたびに文句を言っていたのだが、最初の頃は「いちゃもんをつける変なオヤジ」としか受け取られなかった。いや、今でもそうだろう。
自転車が車道左端を安全に走るためには、どうしてもクルマのドライバーの理解と協力が要る。そこで、TVの仕事はお断りすることがあっても、ラジオの仕事は喜んでお引き受けすることにしている。運転しながらラジオを聞いている人は多い。その人たちに、自転車は同じ車両であり、車道を走るものだから注意してください、とメッセージを送ることはとても重要である。
TV局にいる古い友人から話があり、「TVはつまみ食いをするからイヤだ」などと偉そうなことを言ったら、正味1時間半の番組だ、自転車の話題でそんなに長い時間、視聴者をつなぎ止めておくことは不可能だろうから、テーマを3つくらい並べて・・・という話になった。売り言葉に買い言葉である。酒の席だったが、3時間以上、自転車にまつわる話を並べ立てた。結局、自転車だけで2時間のトーク番組にすることになったが、ただでさえ視聴率の低いBS放送である。退屈してチャンネルを替える人ばかりだったらどうしよう、と不安でいっぱいだった。二代目自転車名人の鶴見辰吾さんを引っ張り出したことが功を奏したのか、反響はまずまずだったようで、私の説得に負けてGOサインを出した友人の顔も立ったらしい。しかし、番組内で「KEEP LEFT」と「自転車の楽しさ」を言う時間がなかった私は、やはりTVに不満なのである。
【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】 |