2011年09月30日(金)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその11】~こころに補助輪を~
自転車はクルマである。クルマには乗用車があり、トラックがあり、バスがあり、スポーツカーがある。自転車にも用途に応じて、さまざまな車種があるが、日本では軽四輪に相当する軽快車、いわゆるママチャリが圧倒的で、商用の軽トラックにあたる実用車がごく少数、郵便や新聞配達に使われ、あとは趣味半分のスポーツカーとなる。自転車の世界では、スポーツカーの占める割合か近年急激に高まり、ブームとなっている。スポーツカーはレースに出場するための仕様を、街乗り用に工夫したものだが、本来的にはサイクリングなど趣味のためのものだ。それが通勤などにも使われるようになった。軽く高性能で早い。通勤通学に楽しさを加え、健康にも良い。ママチャリから乗り換えると、その快適さにもう後戻りできなくなる。ポルシェやフェラーリを買ったり、買い換えたりできる人は稀だが、自転車をグレードアップするくらいの資金ならなんとかなる。というので、気がつくと狭い家に何台もの自転車が鎮座しているという人も少なくない。 クルマの世界でも、カミナリ族や暴走族といった輩がつきものだが、ピストや歩道走行、車道での逆走など「顰蹙(ひんしゅく)」のかたまりのような自転車族も増えた。これが、粋がって周りに迷惑をかけることで目立とうという連中であれば、強権発動で取り締まれと世論が沸騰するはずなのだが、単にルールに無知であったり、合理的な安全についての思慮が不足している人たちが、その危険や迷惑の大きさを認識しないで、勘違い走行を繰り返しているのだから始末におえない。取り締まる方も生半可な知識でかかるものだから、漕ぐ振りをしている中国製のフル電動自転車と、日本製アシスト自転車の区別すらつかず、危険を見逃していたりする。お笑い芸人が後輪にブレーキがついていない自転車を公道で乗り回して検挙されたが、ノーブレーキ・ダイレクトギアの違法自転車と、一見しただけでは区別のつかないコースターブレーキ自転車や、ロードレーサーまでをごっちゃにして論じるTV局や新聞もあり、真面目なサイクリストは肩身が狭い。問題の芸人は買ってからブレーキを外したのかもしれないが、初めからノーブレーキだったとしたら販売する側にも問題がある。ピストとは競技用トラックのことで、そこで使われる競技車をピストと称するのだが、ブレーキや反射板、ライトや変速機などレースで邪魔になるものはいっさい付いていない。競技者が公道で練習するときには、ブレーキなどの安全装置を装備して出かける。プロは、ペダル操作で急には停止できないことを知っているから、危険なことはしない。まともな販売店なら、ピストレーサーを素人に売るはずがないが、それらしい自転車を街で散見するのはどうしてだろう。クルマの世界でも、違法改造車や目立つためだけの危険な付属品を売る店はある。自転車販売店の場合、危険や迷惑を認識していない例も多く、怠慢以外のなにものでもない。 自転車には、クルマにないカテゴリーとして「子ども用」がある。クルマのはおもちゃだが、自転車のは実用車であり、貴重な生命が乗っている。だから、自転車の乗り方には「子どもレベル」はない。しかし、街に出れば、心に補助輪が必要な大人たちでいっぱいだ。自転車が一人前のまともな交通機関と認識されていない、つまり市民権を得られていない背景にはこうした不真面目さがつきまとう。自転車文化を日本で芽生えさせるには、やはり自転車利用者がもっと大人になるまで待たなければならないのかもしれない。 【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】 |